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最高裁判所第二小法廷 昭和63年(行ツ)192号 判決

上告人

濱田益男

右訴訟代理人弁護士

泉公一

横井貞夫

森川憲二

多田徹

被上告人

兵庫税務署長

吉松晋

右指定代理人

末原雅人

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人泉公一、同横井貞夫、同森川憲二、同多田徹の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、本件自動車の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上損失の金額が生じたとしても、これを損益通算の対象とならないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。右のように解しても、憲法一四条一項違反の問題を生ずるものでないことは、当裁判所昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決(民集三九巻二号二四七頁)の趣旨に徴して明らかである。また、所論憲法二五条違反の主張は、右憲法一四条一項違反の主張を前提とするか、又は原審の右判断の不当を抽象的に主張するものにすぎず、失当である。論旨は、ひっきょう、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官藤島昭 裁判官香川保一 裁判官奥野久之 裁判官中島敏次郎)

上告代理人泉公一、同横井貞夫、同森川憲二、同多田徹の上告理由

第一〜第三〈省略〉

第四、理由不備ないし理由齟齬の違法

一、原判決は、「本件自動車はその使用の態様よりみて生活に通常必要でない資産に該当する」と認定し、その理由の一つとして、自動車をレジャーの用に供することが生活に通常必要なものということができないことは多言を要しないところであるという。

しかし、主として趣味・娯楽等に供するために所有する動産で明らかに生活に通常必要な資産に該当するといい得る動産は、現代の社会生活においてその例は多い。カラーテレビ・ステレオ・各種スポーツ用品等々例示すれば枚挙にいとまがない。

更に、現代社会において、自家用自動車は通勤、買物、家族の健康保持・娯楽のためのドライブ、家庭生活における友人・知人との交際等々、多様な目的に供するため、生活領域の拡張、生活内容の多様化、円滑化、効率化に不可欠な資産である。

他面、国民生活における普及率という観点から見ても、一九六〇年代後半からの技術水準の向上、道路事情の著しい改善、自動車に対する社会経済的・国民生活的需要の急激な増大等から、いわゆる自動車社会がもたらされ、本件更正処分がなされた一九七六年(昭和五一年)ころは、全国平均でほぼ二世帯に一台乗用車(商業車を除く)が普及した。一九七〇年から一九七五年にかけてだけでも、乗用車保有世帯は倍増するという実情であった。このような社会生活の実態、それを反映する社会通念からしても、自家用自動車がレジャーの用に供されていたというだけでは、それが「生活に通常必要でない資産」に該ると断定できるものではない。

二、しかも、本件自動車にあっては、原判決も認めるように、「供用範囲はレジャーのほか、通勤及び勤務先における業務にまで及んでいる」のである。この点について、原判決は、「自動車を勤務先における業務の用に供することは雇用契約の性質上使用者の負担においてなされるべきことであって、雇用契約における定め等特段の事情の認められない本件においては、被用者である控訴人において業務の用に供する義務があったと言うことはできず、」、「通勤の用に供したことについても、……通勤定期券購入代金が使用者によって全額支給されている以上、……そうする必要はなかった」として、「いずれの場合も生活に通常必要なものとしての自動車の使用でない。」という。

しかしながら、原判決は、他方で使用者から上告人に対し、ガソリン代につき実費程度のものが支払われていることを認めているのである。

そもそも、雇用契約における定め等特段の事情がなければ生活に通常必要な使用とは言えないとなぜ言えるかその理由が不明であるところ、本件にあっては、上告人がその保有する自家用自動車を業務の用に使用する必要性のあることを、使用者が肯認していたからこそガリン代も支払っていたものである。

また、通勤定期購入代金が全額支給されていたということと、給与生活者がその生活の必要に応じて、通勤のために自家用自動車を使用することは全く次限の異なることであり、理由にならない。

おそらく、原判決は、本件事案を給与所得者の必要経費の問題としてとらえ、かつ、本件自動車が「生活に通常必要でない資産」と言わんがために、このような的外れの理由をのべたものと思われる。

したがって、原判決が、本件自動車を「生活に通常必要でない資産に該当する」と認定するために述べている理由は、全く本件事案に不適切な、的外れのものであり、右認定については理由齟齬ないし理由不備の違法がある。

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